10.2 伝わるダッシュボード設計
この章で学ぶこと
- ダッシュボードを作る前に「誰のためか」を決める理由
- KPI ツリーに沿って、ダッシュボードを構成する方法
- 比較と目標値を見せて、数値の良し悪しを伝える方法
- ダッシュボードづくりでよくある失敗と対策
誰のためのダッシュボードか
ダッシュボードは、「データを全部載せる場所」ではなく、見る人が判断・行動するための道具 です。作り始める前に、まず「誰が、何のために見るのか」を決めましょう。
見る人によって、載せるべき内容は違う
| 見る人 | 知りたいこと | 見る頻度 | 載せる内容の例 |
|---|---|---|---|
| 経営層 | 事業の目標に対して順調か | 月 1 回 | 売上、キーイベント数、目標の達成率、前年比 |
| マーケティングの責任者 | どの施策・チャネルが成果を出しているか | 週 1 回 | チャネル別の成果、広告の CPA・ROAS、主な施策の結果 |
| 担当者(広告、SEO、サイト運営) | 自分の施策の状況と、異常がないか | 毎日〜週数回 | キャンペーン別・ページ別の詳細、日別の推移 |
| 営業部門 | 見込み顧客がどれくらい来ているか | 週 1 回 | 問い合わせ数、資料請求数、問い合わせの種類 |
最初に決める 5 つのこと
- 見る人:誰が見るか
- 目的:見て、何を判断するか(予算を増やすか、施策を続けるか、など)
- 頻度:どのくらいの間隔で見るか(毎日、週次、月次)
- 主な指標:判断に必要な指標は何か(3〜5 個に絞る)
- 行動:数値が悪かったら、誰が何をするか
ポイント 「このダッシュボードを見て、どんな行動をとるか」が答えられない指標は、載せる必要がないかもしれません。指標を追加するときは、「これを見て何を判断するのか」を考えましょう。
KPI ツリーに沿った構成
第 1 部で学んだ KPI ツリー は、ダッシュボードの構成を考えるときにも役立ちます。KGI(最終的な目標)から、KPI(中間の目標)へと分解した順番に、上から下へ並べると、数値の関係がわかりやすくなります。
EC サイトの例
[KGI]売上
= セッション数 × 購入率 × 平均購入単価
[KPI]
セッション数(チャネル別)
購入率(デバイス別、新規・リピート別)
平均購入単価(商品カテゴリ別)
ダッシュボードのレイアウト
| エリア | 内容 | グラフの例 |
|---|---|---|
| 上段(結論) | KGI と主な KPI の今月の値、目標比、前期間比 | スコアカード(4〜6 個) |
| 中段(推移) | KGI と KPI の推移 | 時系列グラフ |
| 下段(内訳) | KPI をチャネル、デバイス、ページなどで分解 | 棒グラフ、表 |
人は、ページを 左上から右下へ 読むことが多いため、最も重要な数値を左上に置きます。
ページを分ける
1 ページにすべてを詰め込まず、目的ごとに ページを分ける と見やすくなります。
| ページ | 内容 |
|---|---|
| 1. サマリー | KGI・KPI の全体像(経営層はここだけ見ればよい) |
| 2. 集客 | チャネル別、キャンペーン別の詳細 |
| 3. 行動 | ページ別、ランディング ページ別の詳細 |
| 4. 成果 | キーイベント別、商品別の詳細 |
比較と目標値の見せ方
「今月のセッション数は 12,450」とだけ書かれていても、それが 良いのか悪いのか はわかりません。数値には、必ず 比べる基準 を付けましょう。
比べる基準の種類
| 基準 | 見せ方の例 | わかること |
|---|---|---|
| 目標値 | 目標 15,000 に対して 83% | 目標に対して順調か |
| 前期間 | 前月比 +8.2% | 短期の変化 |
| 前年同期間 | 前年同月比 +15.0% | 季節の影響を除いた成長 |
| ほかの項目 | チャネルの平均よりキーイベント率が高い | 相対的な良し悪し |
目標値をダッシュボードに入れる
GA4 には目標値のデータはないので、Google スプレッドシート に目標値を入力し、Looker Studio でデータソースとして追加します。
スプレッドシートの例
年月 指標 目標値
2026-10 ユーザー数 15,000
2026-10 キーイベント数 450
2026-11 ユーザー数 16,000
GA4 のデータと、目標値のスプレッドシートを 統合(データの統合、ブレンド)して、年月をキーに結びつけると、実績と目標を 1 つのグラフで比べられます。
色の使い方
| 色の使い方 | ポイント |
|---|---|
| 良い・悪いを色で示す | 目標を達成していれば緑、未達なら赤など。ただし色だけに頼らず、▲▼ や数値でも示す |
| 強調する色を絞る | すべてを目立たせると、何も目立たない。強調したいもの 1〜2 つだけに色を付ける |
| 同じものには同じ色 | 「Organic Search は常に青」のように、レポート全体でチャネルの色をそろえる |
注意 前月比は、月の 日数の違い や 曜日の並び の影響を受けます(2 月は短い、5 月は連休がある、など)。季節の影響が大きいビジネスでは、前年同月比もあわせて表示しましょう。
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 指標を詰め込みすぎる | どこを見ればよいかわからず、誰も見なくなる | 1 ページの主な指標を 5 つ程度に絞る |
| 比べる基準がない | 数値の良し悪しがわからない | 目標値、前期間、前年同期間を並べる |
| 定義が書かれていない | 「ユーザー」「コンバージョン」の意味が人によって違って伝わる | 指標の定義や注意点を、レポートの中にテキストで書いておく |
| 作って終わり | 半年後には使われていない | 見る人に使っているかを聞き、定期的に見直す |
| 表示が遅い | 開くまでに時間がかかり、見られなくなる | グラフの数を減らす、ページを分ける、BigQuery の集計テーブルを使う |
| データの注意点を伝えていない | 計測の不具合の期間の数値を、そのまま判断に使われる | 計測の変更や不具合があった期間を、注記として書いておく |
定義と注記の例
【このレポートについて】
・期間:選択した期間(初期値は先月)
・キーイベント:資料請求(generate_lead)と問い合わせ(contact_submit)の合計
・2026 年 9 月 3〜5 日は、計測の不具合でキーイベントが記録されていません
・問い合わせ先:マーケティング部 アクセス解析担当
ポイント ダッシュボードは、一度作って終わりではなく、使われながら育てるもの です。最初は小さく作り、見る人の質問や要望に応じて、ページや指標を追加・削除していきましょう。
よくある質問
Q. ダッシュボードは 1 つにまとめるべきですか。見る人ごとに分けるべきですか。
A. 見る人の 判断の内容 が違うなら、分けるのがおすすめです。経営層向けのサマリーと、担当者向けの詳細を 1 つのダッシュボードに詰め込むと、どちらにとっても見にくくなります。ただし、数値の定義やデータソースは共通にして、「経営層向けの数値」と「担当者向けの数値」が食い違わないようにしましょう。Looker Studio では、1 つのレポートの中でページを分け、ページごとに見る人を想定する方法もあります。
Q. 指標を絞りたいのですが、関係者から「あれも載せてほしい」と言われます。
A. 「その指標を見て、何を判断しますか」と聞いてみましょう。判断に使わない指標は、サマリーのページではなく、補足のページや、必要なときに開く詳細のページに置くのが現実的です。全部を断るのではなく、置き場所を分ける と合意しやすくなります。
Q. 目標値がまだ決まっていません。比べる基準はどうすればよいですか。
A. まずは 前年同期間 と 過去 3〜6 か月の平均 を基準にしましょう。数か月分の実績がたまると、「このくらいは達成できそう」という水準が見えてきます。そのうえで、事業の計画から逆算した目標値を関係者と決めると、根拠のある目標になります(第 1 部の KPI ツリー)。
Q. 毎日見るダッシュボードと、月次のダッシュボードの違いは何ですか。
| 比べる点 | 日次・週次 | 月次 |
|---|---|---|
| 目的 | 異常に早く気づく、施策を調整する | 目標の達成状況を確認し、方針を決める |
| 見る人 | 担当者 | 責任者、経営層 |
| 期間 | 昨日、直近 7 日、直近 28 日 | 先月、前年同月 |
| 重視する見せ方 | 推移のグラフ、異常値の強調 | 目標比、前年比、要因の説明 |
実践ワーク
自社のサイトについて、次の手順でダッシュボードの設計書を作ってみましょう。実際にグラフを作る前に、紙やスプレッドシートに書き出すのがポイントです。
- 見る人を 1 人(1 つの役割)に決め、その人が見て判断することを 1 文で書く
- KGI を 1 つ、KPI を 3〜5 つ書き出し、KPI ツリーの形で関係を整理する
- それぞれの指標について、比べる基準(目標値、前月、前年同月)を決める
- 上段・中段・下段に何を置くか、ラフなレイアウトを描く
- 「この数値が悪かったら、誰が何をするか」を、指標ごとに書く
設計書の例
見る人:マーケティング部長
判断すること:来月の広告予算をどのチャネルに配分するか
KGI:問い合わせ数(目標 150 件 / 月)
KPI:チャネル別のセッション数、チャネル別の問い合わせ率、チャネル別の CPA
比べる基準:目標値、前月、前年同月
悪かったら:CPA が目標を 20% 以上上回ったチャネルは、広告担当が原因を調べて翌週に報告する
書き出した設計書を、実際に見る人に見せて、「これで判断できるか」を確認してから、Looker Studio で作り始めましょう。
まとめ
- ダッシュボードを作る前に、見る人・目的・頻度・主な指標・行動の 5 つを決める
- KPI ツリーに沿って、上段に結論、中段に推移、下段に内訳を置き、目的ごとにページを分ける
- 数値には、目標値・前期間・前年同期間などの比べる基準を必ず付ける
- 色は強調したいところに絞り、同じものには同じ色を使う
- 指標の定義や計測の注意点を、レポートの中に書いておく
次の章では、GA4 の生データを BigQuery に出力する、BigQuery エクスポートの設定を学びます。