1.6 解析を始める前に決めること
この章で学ぶこと
- サイトの目的を一文で言語化する方法
- KGI と KPI の違いと関係
- KPI ツリーを作って、見るべき指標を絞り込む方法
- 計測計画書の作り方
- 関係者と合意しておくべきこと
サイトの目的を一文で書く
第 1 章で、「動ける」アクセス解析には 目的 が欠かせないと説明しました。目的がないまま GA4 を開くと、たくさんのレポートと数値を前に、何を見ればいいのかわからなくなってしまいます。
そこで、GA4 の設定や分析を始める前に、まず このサイトは何のためにあるのか を一文で書いてみましょう。
目的の書き方
目的は、次の型に当てはめると書きやすくなります。
「〔誰に〕〔何を〕してもらい、〔事業として何を〕実現するためのサイト」
| サイトの種類 | 目的の例 |
|---|---|
| EC サイト | 20〜40 代の女性に商品を購入してもらい、ネット通販の売上を伸ばすためのサイト |
| BtoB 製品サイト | 中堅企業の情報システム部門に資料請求や問い合わせをしてもらい、商談を増やすためのサイト |
| オウンドメディア | 子育て中の保護者に記事を読んでもらい、自社ブランドの認知と会員登録を増やすためのサイト |
| 店舗サイト | 近隣に住む人に来店予約をしてもらい、店舗の集客を増やすためのサイト |
| 採用サイト | 新卒・中途の求職者にエントリーしてもらい、採用人数を確保するためのサイト |
| コーポレートサイト | 取引先や株主、求職者に信頼できる会社だと感じてもらい、各種の問い合わせ窓口として機能するためのサイト |
目的を書いてみると、「誰に」と「何をしてもらうか」が曖昧なことに気づく場合があります。それ自体が大切な発見です。目的が曖昧なまま解析をしても、その結果を判断に結びつけることはできません。
ポイント サイトの目的が 1 つに絞れない場合もあります。たとえばコーポレートサイトには、営業・採用・IR・広報など複数の役割があります。その場合は、目的ごとに「主な目的」「副次的な目的」と優先順位を付けましょう。
「何をしてもらうか」が成果になる
目的の中の「何をしてもらうか」の部分は、GA4 では キーイベント(成果となる行動)になります。
- 購入してもらう →
purchase(購入) - 資料請求や問い合わせをしてもらう →
generate_lead(リードの獲得)など - 会員登録してもらう →
sign_up(登録) - 来店予約をしてもらう → 予約完了のイベント
- エントリーしてもらう → エントリー完了のイベント
GA4 は「どの行動が成果なのか」を自分では判断できません。目的を言語化することで、初めて GA4 に何を成果として数えさせるかが決まります。
KGI と KPI の関係
目的が決まったら、次はその達成度合いを測る 数値目標 を決めます。ここで登場するのが KGI と KPI です。
| 用語 | 正式名称 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| KGI | Key Goal Indicator(重要目標達成指標) | 最終的に達成したいゴールを測る指標 | サイト経由の年間売上 1 億円 |
| KPI | Key Performance Indicator(重要業績評価指標) | ゴールに向かうプロセスが順調かを測る中間指標 | 月間購入件数 1,000 件、購入率 2% |
KGI は「ゴール」、KPI は「ゴールまでの途中にあるチェックポイント」です。マラソンにたとえると、KGI が「4 時間以内に完走する」、KPI が「10km 地点を 57 分以内に通過する」「1km あたりのペースを 5 分 40 秒以内に保つ」といったものになります。
よい KPI の条件
KPI にする指標は、次の条件を満たしていることが望ましいです。
- KGI とつながっている:その数値が良くなれば、KGI も良くなる関係にある
- 自分たちで動かせる:施策によって改善できる
- 定期的に測れる:GA4 などで継続して計測できる
- 具体的な目標値がある:「増やす」ではなく「月 1,000 件」のように数値で決める
- 数が多すぎない:主要な KPI は 3〜5 個程度に絞る
逆に、よくない KPI の例としては次のようなものがあります。
- ページビュー数を KPI にする:ページビューが増えても、売上や問い合わせが増えるとは限らない(KGI とのつながりが弱い)
- 市場全体のシェアを KPI にする:サイトの施策だけでは動かしにくい
- 20 個の指標をすべて KPI にする:どれが重要なのかわからなくなる
注意 GA4 で簡単に見られる指標(ユーザー数、表示回数など)を、なんとなく KPI にしてしまうケースがよくあります。KPI は「見やすい数値」ではなく「目的の達成につながる数値」から選びましょう。
KPI ツリーの作り方
KGI と KPI の関係を整理するのに便利なのが KPI ツリー です。KPI ツリーは、KGI を構成する要素に分解していき、その関係を木の形で表したものです。
EC サイトの KPI ツリーの例
EC サイトの売上は、次のように分解できます。
売上(KGI)
= 購入件数 × 平均購入単価
= (セッション数 × 購入率)× 平均購入単価
これを木の形にすると、次のようになります。
売上
├─ 購入件数
│ ├─ セッション数
│ │ ├─ 自然検索からのセッション
│ │ ├─ 広告からのセッション
│ │ ├─ SNS からのセッション
│ │ └─ メールからのセッション
│ └─ 購入率(セッションのキーイベント率)
│ ├─ 商品ページの閲覧率
│ ├─ カート追加率
│ └─ 決済完了率
└─ 平均購入単価
├─ 1 回あたりの購入点数
└─ 商品単価
ツリーにすると、「売上を伸ばすには、セッション数・購入率・平均購入単価のどれを改善すべきか」を考えやすくなります。また、売上が下がったときに、どの要素が原因なのかを順番にたどって探すこともできます。
BtoB サイトの KPI ツリーの例
BtoB サイトでは、サイト上で売上が発生しないことがほとんどです。その場合は、営業部門の商談や受注につながる指標を KGI とし、サイトで計測できる問い合わせを中心に分解します。
サイト経由の受注件数(KGI)
├─ 商談化件数
│ ├─ 問い合わせ・資料請求件数(サイトの主要 KPI)
│ │ ├─ 問い合わせページへの到達数
│ │ │ ├─ 製品ページのセッション数
│ │ │ └─ 事例ページのセッション数
│ │ └─ フォーム完了率
│ └─ 商談化率(営業部門のデータ)
└─ 受注率(営業部門のデータ)
このツリーでは、サイトが責任を持つ範囲(問い合わせまで)と、営業が責任を持つ範囲(商談化以降)が明確になっています。GA4 で計測するのは前者ですが、後者のデータとつなげることで、「受注につながりやすい問い合わせはどのチャネルから来ているか」といった分析もできるようになります(第 10 部・第 12 部)。
KPI ツリーを作るときのコツ
- 掛け算と足し算で分解する:「売上 = 件数 × 単価」のように掛け算で、「セッション = 検索 + 広告 + SNS」のように足し算で分解すると、漏れや重複が起きにくい
- 計測できるものを末端にする:末端の要素が GA4 などで計測できると、日々のモニタリングに使える
- 完璧を目指さない:最初は 3 階層程度でかまわない。運用しながら見直していく
計測計画書を作る
KPI が決まったら、それを GA4 で計測するための 計測計画書(計測設計書)を作ります。計測計画書は、「何を、どのイベントで、どのように計測するか」をまとめた設計図です。
計測計画書に書く項目
| 項目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| KPI | 計測したい指標 | 資料請求件数 |
| ユーザーの行動 | KPI に対応する具体的な行動 | 資料請求フォームを送信する |
| イベント名 | GA4 に送るイベントの名前 | generate_lead |
| パラメータ | イベントに付ける追加情報 | form_name(フォームの種類) |
| 計測方法 | どうやってイベントを発生させるか | サンクスページの表示で GTM から送信 |
| キーイベント | キーイベントに設定するか | する |
| 担当 | 実装する人 | ウェブ制作チーム |
| 確認方法 | 正しく計測できているかの確認 | DebugView で確認 |
最初からすべてを網羅する必要はありません。まずは KGI に直結するキーイベント と、KPI ツリーの主要な要素 を計測できるようにすることを優先しましょう。細かい行動の計測は、分析を進めるうちに「これが知りたい」と思ったときに追加すれば十分です。
ポイント 計測計画書はスプレッドシートで管理するのがおすすめです。イベントを追加・変更したときに更新しておくと、担当者が変わっても「このイベントは何のために、どう計測しているのか」がわかります。具体的なフォーマットは第 3 部の「計測設計の実践」で紹介します。
計測計画の優先順位
計測項目は、次の順番で優先順位を付けると進めやすくなります。
- 必須:KGI に直結するキーイベント(購入、問い合わせ、会員登録など)
- 重要:KPI ツリーの中間要素(カート追加、フォーム開始、主要な CTA のクリックなど)
- あるとよい:改善のヒントになる行動(動画の視聴、特定コンテンツの閲覧など)
GA4 の拡張計測機能(第 2 部)を有効にするだけで、スクロールや離脱クリックなど「あるとよい」の一部は自動で計測されます。まずは「必須」を確実に実装しましょう。
関係者との合意形成
アクセス解析は、一人で完結する仕事ではありません。サイトの目的や KPI は、関係者と合意しておかないと、せっかくの分析結果が判断に使われない、ということが起こります。
誰と合意するか
| 関係者 | 合意しておくこと |
|---|---|
| 経営層・事業責任者 | サイトの目的、KGI とその目標値 |
| マーケティング担当 | KPI とその目標値、見るレポート |
| 営業部門 | 問い合わせの定義、商談・受注データの共有方法 |
| ウェブ制作・開発チーム | 計測計画書、タグの実装方法とスケジュール |
| 情報システム・法務 | Cookie の扱い、プライバシー ポリシーへの記載 |
合意しておくべき 5 つのこと
- サイトの目的と KGI:何のためのサイトで、何を達成したいのか
- KPI と目標値:何をどのくらいの水準にしたいのか
- 成果の定義:何を「問い合わせ 1 件」と数えるのか(重複や、テスト送信の扱いなど)
- 報告のルール:誰が、いつ、どの形式で、誰に報告するのか
- 数値の正:売上などは GA4 と基幹システムのどちらを正とするのか
特に 3 と 5 は、あとで「数字が合わない」という議論になりやすいポイントです。最初に決めておけば、無用な混乱を防げます。
よくある質問
Q. サイトの目的が複数あり、一文にまとめられません。
A. 目的が複数あること自体は問題ありません。ただし、最も優先する目的 を 1 つ決めておくと、判断に迷ったときの基準になります。たとえば、「問い合わせの獲得」と「採用の応募」の両方が目的なら、それぞれに KGI を置き、どちらを優先するかを関係者と合意しておきましょう。
Q. KGI は売上にすべきですか。
A. サイトで売上が発生する EC サイトなら、売上を KGI にするのが自然です。サイトで売上が発生しない場合は、問い合わせ数や会員登録数など、サイトがコントロールできる成果 を KGI にし、その先の売上への貢献は、営業や CRM のデータと結びつけて確認します(第 10 部、第 12 部)。
Q. 計測計画書は、どのくらい詳しく書けばよいですか。
A. 最初から完璧な計画書を作る必要はありません。まずは、KGI・KPI、計測するイベントの一覧、キーイベントにするイベント、の 3 つを書いておけば十分です。計測を追加するたびに、計画書も更新していきましょう。
実践ワーク
自社のサイトについて、次の 5 つを書き出してみましょう。
| 項目 | 記入 |
|---|---|
| サイトの目的(一文) | |
| KGI と目標値 | |
| KPI(3〜5 つ) | |
| 計測するキーイベント | |
| 数値を見て判断する人と、見る頻度 |
書き出したら、サイトに関わる人(上司、営業、制作の担当者など)に見せて、「この目的と KGI で合っているか」を確認しましょう。この表は、この講座のあとの部でも、計測の設計やレポートを作るときの出発点として使います。
まとめ
- 解析を始める前に、サイトの目的を「誰に・何をしてもらい・何を実現するか」の一文で書く
- KGI は最終ゴール、KPI はそこに向かうプロセスを測る中間指標である
- KPI ツリーで KGI を分解すると、改善すべき要素と見るべき指標が明確になる
- 計測計画書に「何を、どのイベントで、どう計測するか」をまとめ、必須のキーイベントから実装する
- 目的・KPI・成果の定義・報告ルール・数値の正を関係者と合意しておく
これで第 1 部は終わりです。理解度クイズ で第 1 部の内容を確認してみましょう。次の第 2 部では、いよいよ GA4 をサイトに導入し、正しくデータを集めるための初期設定を行います。