8.7 予算配分と ROI の判断
この章で学ぶこと
- ROAS と CPA の計算方法と使い分け
- チャネルを横断して費用対効果を比べる方法
- 「増分効果」という考え方
- 予算配分の意思決定の進め方
ROAS と CPA
広告の費用対効果を表す代表的な指標が、ROAS と CPA です。
| 指標 | 正式名称 | 計算 | 意味 |
|---|---|---|---|
| ROAS | Return On Advertising Spend | 広告経由の売上 ÷ 広告費 × 100(%) | 広告費 1 円あたり、いくらの売上があったか |
| CPA | Cost Per Acquisition | 広告費 ÷ 成果の件数 | 成果 1 件を獲得するのに、いくらかかったか |
| CPC | Cost Per Click | 広告費 ÷ クリック数 | 1 クリックあたりの費用 |
| ROI | Return On Investment | (利益 − 投資額)÷ 投資額 × 100(%) | 投資に対して、どれだけの利益があったか |
例)
広告費 100,000 円、広告経由の売上 400,000 円、購入件数 50 件
ROAS = 400,000 ÷ 100,000 × 100 = 400%
CPA = 100,000 ÷ 50 = 2,000 円
ROAS と CPA の使い分け
| 指標 | 向いているビジネス | 理由 |
|---|---|---|
| ROAS | EC サイトなど、サイトで売上が発生するビジネス | 売上の金額で評価できる。単価の違う商品をまとめて比べられる |
| CPA | BtoB のリード獲得、会員登録など、サイトで売上が発生しないビジネス | 成果 1 件あたりの費用で評価できる |
ROAS と ROI の違い
ROAS は 売上 をもとにした指標で、利益 は考慮していません。たとえば、ROAS が 400% でも、商品の原価率が 80% なら、広告費を差し引くと赤字になります。
売上 400,000 円、原価率 80%、広告費 100,000 円
粗利 = 400,000 × (1 − 0.8) = 80,000 円
粗利 − 広告費 = 80,000 − 100,000 = −20,000 円(赤字)
そのため、広告が利益を生んでいるかを判断するには、損益分岐点の ROAS を知っておくことが大切です。
損益分岐点の ROAS = 1 ÷ 粗利率 × 100
粗利率 20% の場合:1 ÷ 0.2 × 100 = 500%
→ ROAS が 500% を超えないと、広告費を回収できない
ポイント 自社の損益分岐点の ROAS や、許容できる CPA(許容 CPA)を、あらかじめ計算しておきましょう。目標の ROAS や CPA が決まっていると、「この広告は続けるべきか」の判断がしやすくなります。
許容 CPA の計算
リード獲得型のビジネスでは、許容 CPA(1 件の成果に、いくらまで費用をかけてよいか)を、次のように計算します。
許容 CPA = 成果 1 件あたりの利益の期待値
= 平均受注額 × 粗利率 × 成果から受注に至る割合
例)平均受注額 200 万円、粗利率 40%、資料請求から受注に至る割合 2%
許容 CPA = 2,000,000 × 0.4 × 0.02 = 16,000 円
(数値は例)
第 6 部の LTV の考え方を使って、初回の受注額ではなく、顧客の生涯の利益で計算することもあります。
チャネル横断の比較
GA4 を使うと、複数の広告媒体や、広告以外のチャネルを、同じ基準 で比べられます。
比べ方の例
| チャネル / 媒体 | 費用 | セッション | キーイベント | 収益 | CPA | ROAS |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Google 広告(検索) | ¥300,000 | 6,000 | 150 | ¥1,500,000 | ¥2,000 | 500% |
| Meta 広告 | ¥200,000 | 8,000 | 60 | ¥480,000 | ¥3,333 | 240% |
| LINE 広告 | ¥100,000 | 3,000 | 30 | ¥270,000 | ¥3,333 | 270% |
| ディスプレイ広告 | ¥100,000 | 5,000 | 10 | ¥80,000 | ¥10,000 | 80% |
(数値は例。キーイベントと収益は GA4 のデータドリブン アトリビューションによる)
比べるときの注意点
- 同じアトリビューション モデルを使う:媒体の管理画面の数値ではなく、GA4 のアトリビューションで割り振った数値で比べる(前の章)
- 役割の違いを考慮する:ディスプレイ広告や SNS 広告は、認知の段階で貢献することが多く、直接の成果だけで評価すると低く見えやすい(第 7 部)
- 期間を十分にとる:検討期間が長い商材では、短い期間で評価すると、成果がまだ発生していないことがある
- LTV も見る:初回の成果だけでなく、獲得したユーザーの長期的な価値も比べる(第 6 部)
増分効果という考え方
ここまでの ROAS や CPA は、「広告から来た人が、どれくらい成果を出したか」を見ています。しかし、本当に知りたいのは、「広告がなかったら、その成果はなかったのか」 ということです。
増分効果(インクリメンタリティ)とは
増分効果 とは、広告を出したことによって、広告を出さなかった場合に比べて、追加で 生まれた成果のことです。
例)指名検索の広告
自社の名前で検索した人に表示する広告から、月に 100 件の購入があった
→ ROAS は非常に高い
しかし、広告がなくても、その人たちは自然検索の結果から同じように購入していたかもしれない
→ 広告の増分効果は、実は小さい可能性がある
増分効果が問題になりやすい広告
| 広告 | 増分効果が小さくなりやすい理由 |
|---|---|
| 指名検索の広告 | 広告がなくても、自然検索から来る可能性が高い |
| 購入者・既存顧客へのリマーケティング | もともと購入するつもりの人に広告を見せている可能性がある |
| ビュースルーの成果 | 広告を見なくても購入した人が含まれる |
逆に、新しい層にリーチする広告(一般キーワードの検索広告、新規のターゲットへの SNS 広告など)は、ROAS が低めでも、増分効果は大きいことがあります。
増分効果を測る方法
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| リフト テスト | ユーザーをランダムに「広告を見せるグループ」と「見せないグループ」に分け、成果を比べる(広告媒体の機能を使う) |
| 地域テスト | 一部の地域だけ広告を止め(または始め)、ほかの地域と成果の変化を比べる |
| 期間テスト | 一定期間、広告を止めて、成果がどれくらい減るかを見る(季節などの影響に注意) |
| マーケティング ミックス モデリング(MMM) | 統計的な手法で、各チャネルの売上への寄与を推定する(大規模な投資をしている企業向け) |
注意 増分効果の測定は、ある程度の予算とデータ量が必要で、中小規模のビジネスでは難しいこともあります。その場合も、「この広告がなくても、この成果は得られたのではないか」という視点を持って、ROAS や CPA を解釈することが大切です。
予算配分の意思決定
最後に、ここまでの考え方を使って、広告の予算配分を判断する流れを紹介します。
ステップ 1:目標を決める
- 事業の目標(売上、リード数など)から、広告で獲得すべき成果の数を決める
- 損益分岐点の ROAS や、許容 CPA を計算しておく
ステップ 2:現状を把握する
- GA4 で、チャネル・媒体ごとの費用、成果、ROAS、CPA を同じ基準で並べる
- アトリビューション モデルを切り替えて、ラストクリックとデータドリブンで評価が大きく違うチャネルを確認する
- 獲得したユーザーの LTV もチャネルごとに確認する
ステップ 3:チャネルを分類する
| 分類 | 状況 | 判断の例 |
|---|---|---|
| 拡大 | 目標の ROAS・CPA を大きく上回っている、増分効果も期待できる | 予算を増やす。ただし、予算を増やすと効率が下がることがあるので、少しずつ増やす |
| 維持 | 目標の水準を満たしている | 予算を維持しながら、広告の中身を改善する |
| 改善 | 目標の水準に届いていないが、認知や間接の貢献がある | ターゲットやクリエイティブ、ランディング ページを改善する。評価の指標を見直す |
| 縮小 | 目標を大きく下回り、間接の貢献も小さい | 予算を減らす、または停止する |
ステップ 4:小さく試して、検証する
予算配分の変更は、一度に大きく行うのではなく、少しずつ変えて、効果を確かめる のが安全です。
- 予算の一部(例:10〜20%)を移す
- 2〜4 週間程度、成果の変化を確認する
- 全体の成果(GA4 の全チャネルのキーイベント数や収益)が改善しているかを確認する
- 改善していれば、さらに移す
ポイント 予算配分の判断では、個々の媒体の ROAS よりも、全体の成果が増えたかどうか を最終的な基準にしましょう。ある媒体の予算を減らしたら、その媒体の成果は減ったが、ほかのチャネルの成果も減った、ということもあります(その媒体が認知の段階で貢献していた場合)。
まとめ
- ROAS は売上ベース、CPA は件数ベースの費用対効果の指標で、ビジネスの形に合わせて使い分ける
- ROAS は利益を考慮しないため、損益分岐点の ROAS や許容 CPA を計算しておく
- チャネルを横断して比べるときは、GA4 の同じアトリビューションで割り振った数値を使い、役割や LTV も考慮する
- 本当に知りたいのは増分効果。指名検索やリマーケティングは、ROAS が高くても増分効果が小さいことがある
- 予算配分は、目標の設定 → 現状の把握 → 分類 → 小さく試して検証、の流れで進め、全体の成果で判断する
これで第 8 部は終わりです。理解度クイズ で確認してみましょう。次の第 9 部では、Google タグ マネージャーを使って、コードを触らずに柔軟な計測を実装する方法を学びます。