12.3 EC サイトの活用事例
この章で学ぶこと
- EC サイトで見るべき KPI
- 新規顧客とリピート顧客を分けて分析する方法
- 商品ページを改善するための分析
- セールや季節の施策を評価する方法
見るべき KPI
EC サイトの売上は、次のように分解できます(第 1 部の KPI ツリー)。
売上 = セッション数 × 購入率(セッション単位) × 平均購入単価
それぞれの要素を、さらに細かく分解すると、改善のための KPI が見えてきます。
| 要素 | KPI | GA4 の指標・レポート |
|---|---|---|
| セッション数 | チャネル別のセッション数、新規ユーザー数 | トラフィック獲得、ユーザー獲得 |
| 購入率 | 購入の各段階の移行率(商品の閲覧 → カート → 購入手続き → 購入) | ファネル データ探索、購入までの流れ |
| 平均購入単価 | 平均購入単価、1 回の購入あたりの商品の数 | 収益化の概要、e コマース購入数 |
| 継続 | リピート購入率、LTV | ユーザーのライフタイム、コホート データ探索 |
EC サイトの計測で整えておくこと
| 計測 | 内容 |
|---|---|
| EC の推奨イベント | view_item、add_to_cart、begin_checkout、purchase などを、商品の情報(items)付きで計測する(第 7 部) |
| 取引 ID | transaction_id を必ず送り、重複を防ぐ |
| 返品・キャンセル | refund イベント、または基幹システムのデータとの突き合わせ |
| 会員の情報 | ログインしている場合は User-ID、会員のランクはユーザー プロパティで |
ポイント GA4 の売上は、基幹システムの売上と完全には一致しません(計測の漏れ、キャンセル、返品、税・送料の扱いの違いなど)。GA4 の売上は「傾向をつかむ」「チャネルや商品を比べる」ために使い、正確な売上は基幹システムの数値を使うと、社内で説明しやすくなります。
新規とリピートの分析
EC サイトでは、新規顧客の獲得 と リピート顧客の育成 で、とるべき施策が大きく違います。
新規とリピートを分けて見る
| 比べる点 | 新規顧客 | リピート顧客 |
|---|---|---|
| 主な流入元 | 検索、広告、SNS | ブックマーク(Direct)、メール、アプリ |
| 購入率 | 低い傾向 | 高い傾向 |
| 平均購入単価 | 商品による | 高い傾向(まとめ買いなど) |
| 施策 | 広告、SEO、初回限定の特典 | メール、ポイント、会員の特典、おすすめの商品 |
分析の方法
| 分析 | 方法 |
|---|---|
| 新規とリピートの売上の構成 | 探索で、「新規 / 既存」のディメンション、または「購入したことがあるユーザー」のセグメントで比べる |
| 初回の購入から 2 回目の購入までの期間 | BigQuery で、ユーザーごとの購入の日付を並べて集計する |
| 初回の購入のチャネル別の LTV | 「ユーザーのライフタイム」の探索で、最初のユーザーの流入元別に LTV を比べる(第 6 部) |
| リピートの継続 | コホート データ探索で、初回の購入の月ごとに、その後の購入の継続を見る |
F2 転換率
EC では、初回の購入をした顧客が 2 回目の購入 をする割合を、F2 転換率 と呼び、重視することがあります。2 回目の購入をした顧客は、その後も継続して購入する可能性が高いためです。
F2 転換率 = 2 回目の購入をした顧客数 ÷ 初回の購入をした顧客数
例)2026 年 7 月に初回の購入をした顧客 500 人のうち、
90 日以内に 2 回目の購入をした顧客 85 人 → F2 転換率 17%
(数値は例。User-ID や BigQuery で、顧客ごとの購入の回数を数える必要がある)
注意 GA4 の「新規ユーザー」は、サイトに初めて訪れた(Cookie が新しい)ユーザーで、「初めて購入したユーザー」ではありません。また、Cookie が消えると、リピーターも新規ユーザーとして数えられます。購入の回数で正確に分析したい場合は、User-ID や、基幹システムの購入の履歴と組み合わせましょう。
商品ページの改善
商品ページは、EC サイトで 購入の決め手 になる、最も重要なページです。
商品ごとの「閲覧 → カート」の率を見る
「e コマース購入数」のレポート(または探索)で、商品ごとに次の指標を並べます。
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| 閲覧されたアイテム数 | 商品ページが見られた回数 |
| カートに追加されたアイテム数 | カートに入れられた回数 |
| 閲覧後カートに追加された率 | カートに追加 ÷ 閲覧 |
| 購入されたアイテム数 | 購入された数 |
| アイテムの収益 | 商品の売上 |
商品を 4 つに分類する
| 分類 | 状況 | 施策の例 |
|---|---|---|
| よく見られ、よくカートに入る | 人気の商品 | 在庫の確保、関連商品の提案、トップページで目立たせる |
| よく見られるが、カートに入らない | 興味はあるが、購入の決め手がない | 価格・送料・在庫の表示、商品の写真や説明、レビューを見直す |
| あまり見られないが、カートに入る率が高い | 見つけてもらえていない良い商品 | サイト内の導線、検索、広告で露出を増やす |
| あまり見られず、カートにも入らない | 需要が少ない | 商品の見直し、ページの改善の優先度は低い |
商品ページの改善のチェックポイント
- 写真:商品の大きさや質感がわかるか、スマホで見やすいか
- 価格と送料:送料や合計の金額が、すぐにわかるか
- 在庫と配送の日数:いつ届くかがわかるか
- レビュー:ほかの人の評価が見られるか
- カートのボタン:スマホで、スクロールしなくても見つけられるか
- よくある質問:サイズや使い方の疑問に答えているか
ポイント 「よく見られるが、カートに入らない」商品は、ページの改善の効果が大きい候補です。サイト内検索のキーワード(第 5 部)や、問い合わせの内容から、ユーザーが知りたいことを探して、商品ページに追加しましょう。
季節施策の評価
EC サイトでは、セール、季節のイベント(母の日、年末年始など)、新商品の発売など、期間限定の施策 が多くあります。
施策の評価の指標
| 指標 | 見る内容 |
|---|---|
| 期間中の売上・購入数 | 施策の期間の成果 |
| 前年同期比 | 季節の影響を考慮した成長 |
| 新規顧客の数 | 施策で、新しい顧客を獲得できたか |
| 平均購入単価 | セールで単価が下がりすぎていないか |
| 施策の後の売上 | 施策の後に、売上が落ち込んでいないか(需要の先食い) |
| 施策で獲得した顧客のリピート | セールで獲得した顧客が、その後も購入しているか |
需要の先食いに注意する
例)
セールの期間(1 週間):売上 +80%(通常の週との比較)
セールの後の 2 週間:売上 −30%
→ セールの期間の売上の増加の一部は、本来セールの後に購入されるはずだった需要が、前倒しされただけかもしれない
施策の効果は、施策の期間だけでなく、前後の期間も含めて 評価しましょう。
キャンペーンの比較のための準備
| 準備 | 内容 |
|---|---|
| UTM の命名規則 | 施策ごとに utm_campaign を統一した命名規則で付ける(例:2026_mothersday) |
| 施策の記録 | 施策の期間、内容、割引率、広告費を、一覧にして記録する |
| GA4 の注釈 | 施策の開始日・終了日を、レポートの注釈に記録する |
| 前年のデータ | 前年の同じ施策のデータを、比べられるように保存しておく(GA4 のデータの保持期間に注意。BigQuery があると便利) |
よくある質問
Q. GA4 の売上が、EC の管理画面の売上より 1〜2 割少ないです。
A. 珍しくない差です。主な原因は、Cookie の同意を拒否したユーザーや広告ブロッカーによる計測の漏れ、完了ページを表示する前の離脱、外部の決済サービスからの戻りの漏れなどです。差が 一定 であれば、傾向を見るのには問題ありません。差が急に変わった場合や、5 割を超えるような大きな差がある場合は、purchase の計測を確認しましょう(付録のトラブルシューティング)。
Q. 定期購入(サブスクリプション)の売上は、どう計測すればよいですか。
A. 初回の申し込みは、サイトで purchase として計測できます。2 回目以降の自動の決済は、ユーザーがサイトに来ないため、ブラウザのタグでは計測できません。継続の決済は、Measurement Protocol でサーバーから送るか、GA4 では初回の申し込みだけを計測し、継続の売上は基幹システムのデータで分析する、という使い分けが現実的です。
Q. モール(大手の EC モール)の店舗の売上も、GA4 で見られますか。
A. 一般に、モールの中の店舗のページには、GA4 のタグを自由に設置できないため、自社サイトと同じようには計測できません。モールの売上は、モールが提供する分析の機能で確認し、自社サイトの GA4 のデータとは、Looker Studio やスプレッドシートで並べて比べましょう。
Q. 商品の数が多く、商品ごとの分析が大変です。
A. 商品を カテゴリ や 価格帯、ブランド などでまとめて分析すると、全体の傾向がつかみやすくなります。item_category などのパラメータを、商品の情報として正しく送っておくことが前提です(第 7 部)。そのうえで、売上の上位の商品だけを個別に見る、という分け方がおすすめです。
実践ワーク
自社の EC サイトの KPI を、次の表に書き出してみましょう。
| 要素 | 今月の値 | 前年同月 | 前年同月比 | 主な変化の要因 |
|---|---|---|---|---|
| セッション数 | ||||
| 購入率(セッション単位) | ||||
| 平均購入単価 | ||||
| 売上(上の 3 つの積) | ||||
| 新規顧客の売上の割合 |
表が埋まったら、売上の変化に 最も影響した要素 を 1 つ選び、その要素をさらに分解してみましょう(たとえば、セッション数ならチャネル別、購入率ならデバイス別やファネルのステップ別)。分解を 2〜3 段階進めると、「どこを改善すべきか」が具体的に見えてきます。
まとめ
- EC の売上は、セッション数 × 購入率 × 平均購入単価に分解し、それぞれの KPI を追う
- 新規顧客とリピート顧客は、流入元・購入率・施策が違うので、分けて分析する。F2 転換率も重要な指標
- 商品を「閲覧の多さ」と「カートに入る率」で分類し、「見られるがカートに入らない」商品のページを優先して改善する
- 季節の施策は、前年同期比、新規顧客、需要の先食い、施策の後のリピートまで含めて評価する
次の章では、BtoB の企業や、リード獲得を目的とするサイトでの活用を紹介します。